

Award & Review映画の評価
- ゴールデングローブ賞(主演女優賞 コメディ・ミュージカル部門(オークワフィナ) 受賞/外国語映画賞 ノミネート)
- ゴッサム・インディペンデント映画賞(作品賞 ノミネート/主演女優賞 (オークワフィナ) 受賞/脚本賞 ノミネート)
- インディペンデント・スピリット賞(作品賞 受賞/助演女優賞(チャオ・シュウチェン) 受賞/女性監督賞 ノミネート)
- アメリカン・フィルム・インスティチュート賞(2019年ベスト10 受賞)
- ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞(インディペンデント映画トップ10 受賞)
- 放送映画批評家協会賞(脚本賞 ノミネート/主演女優賞 (オークワフィナ) ノミネート/助演女優賞 (チャオ・シュウチェン) ノミネート/コメディ作品賞 ノミネート)
Theater公開劇場
Trailerトレイラー
Introductionイントロダクション
たった4館のスタートから全米TOP10入りの大ヒット!今最も勢いのある映画スタジオ「A24」が贈る優しい〈嘘〉から生まれた感動の実話
2019年、全米でわずか4館の公開でのスタートにもかかわらず、口コミで熱い感動の輪が広がり上映館数が飛躍的に拡大し、3週目にはTOP10入りを果たすという異例の大ヒットを成し遂げた話題作がある。辛口のメディアからも手ばなしの大絶賛を浴び、先ごろ発表された第77回ゴールデングローブ賞では、主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞、外国語映画賞にノミネートされるなど、またたくまに本年度の賞レースのトップに躍り出た『フェアウェル』だ。
熱狂の始まりは、2019年1月のサンダンス映画祭で行われたワールドプレミアだった。当時はまだ無名のルル・ワン監督が、自身と家族の実体験を描いた作品の配給権をめぐり、数々の名立たる映像会社が争奪戦を繰り広げたのだ。破格の条件が飛び交う中、ワン監督の心を射止めたのは、新進気鋭の映画スタジオ「A24」。2012年に設立以来、3年目に『ルーム』でアカデミー賞🄬作品賞にノミネートされ、4年目にして『ムーンライト』で見事同賞を獲得したプロデューサーたちも惚れ込んだ、家族の優しい〈嘘〉から生まれた「最高傑作」(byローリングストーン、ニューヨーク・マガジン、バズフィード他)が、ついに日本にもやって来る!
ハリウッドで活躍するアジア系女性監督×主演オークワフィナ
余命3ヶ月の祖母に真実を隠し、〈嘘〉の結婚式の名目で集まる親戚一同「さよなら」の代わりに家族が伝えたこととは?NYに暮らすビリーと家族は、ガンで余命3ヶ月と宣告された祖母ナイナイに最後に会うために中国へ帰郷する。家族は、病のことを本人に悟られないように、集まる口実として、いとこの結婚式をでっちあげる。ちゃんと真実を伝えるべきだと訴えるビリーと、悲しませたくないと反対する家族。葛藤の中で過ごす数日間、うまくいかない人生に悩んでいたビリーは、逆にナイナイから生きる力を受け取っていく。ついに訪れた帰国の朝、彼らが辿り着いた答えとは?
ビリーには、『オーシャンズ8』、『ジュマンジ/ネクスト・レベル』など、ハリウッド超大作で絶大なるインパクトを放ち、大ブレイク中のオークワフィナ。ニューヨーク生まれのアジア系アメリカ人でラッパーとしても知られ、米「TIME」誌の“次世代の100人”の「提唱者」部門に選ばれるなど、ジャンルを超えて活躍している。祖母を敬愛するからこそ真実を伝えたいという想いと、傷つけないための良い嘘だという家族と医師の言葉に揺れるビリーの感情を細やかに演じ、その新たな魅力を高く評価された。本作での受賞リストを日々アップデートし、見事ゴールデングローブ賞主演女優賞に輝いた。
ビリーの祖母には、中国ではTVドラマで広く知られるチャオ・シュウチェン。戦争もあった波乱の時代を生き抜いた、芯の通った女性を生き生きと演じた。家族を励ます一言一句が、おばあちゃんの名言として心に響く。ビリーの父には、『ラッシュアワー』シリーズ、『メッセージ』などのツィ・マー。
脚本も手掛けた本作の成功で時の人となったルル・ワン監督は、米「Variety」誌の“2019年に注目すべき監督10人”に選ばれた。
感情をぶつけ合い、悲しみを慰め合いながら、絆を確かめ合う家族。ハプニングの連続だった結婚式を終えて、帰国の朝を迎えたビリーが祖母に、「さよなら」の代わりに伝えたこととは? 誰もが覚えのある家族の想いがスクリーンにあふれ、観る者の胸を熱くする、実話から生まれた感動作。
Storyストーリー
NYに暮らすビリーと家族は<嘘>の結婚式を口実に、余命わずかな祖母に会うために帰郷する。本人への告知を巡り対立するビリーと家族。帰国の朝、彼らが選んだ答えとは?
ニューヨークに暮らすビリーは、落ちこんでいた。憧れの学芸員を目指して、グッゲンハイム美術館に応募したのだが、届いたのは不採用通知だった。そんな時も、遠く離れた中国で暮らす祖母のナイナイの優しい声を聞けば、元気が湧いてくる。中国で生まれ、6歳の時に両親に連れられてアメリカへ移住したビリーは、実家を出て独立したが、今は仕事もなく家賃も滞納していた。
そんな中、近くに住む両親を訪ねると、父ハイヤンの様子がおかしい。何があったのかと母ジアンを問い詰めると、ナイナイが肺がんの末期だと診断され、余命3ヶ月と宣告されたという。ビリーはすぐにでも会いに行こうとするが、父から本人には言わないことにしたと止められる。親戚一同がナイナイに会う口実として、ビリーのいとこで両親と日本に移住したハオ ハオの結婚式を中国で挙げることにしたが、感情を隠せないビリーは出席するなと言われてしまう。
だが、このまま会わずに別れるなんてと考えたビリーは、両親のあとを追って中国へと向かう。ナイナイの家に着いたビリーを、両親と大叔母はハラハラしながら迎えるが、ビリーは何とかジョークをひねり出し、皆をホッとさせる。何も知らずに再会を喜ぶナイナイを見ているうちに、苦しくなってしまったビリーを、伯父ハイビンがホテルまで送ってくれる。悲しみに打ちひしがれる伯父は、繰り返しビリーに、病気のことは絶対に本人に言うなとくぎを刺すのだった。
しかし、ナイナイはいたって健康に見えた。朝から自己流の体操をビリーに教え、3日後の結婚式の会場へ下見に行くと、メニューが違うとクレームをつけ、大勢の親せきや友人を招待したという披露宴を成功させるべく、生き生きと取り仕切るのだった。
ところが翌朝、ナイナイの体調が悪化したと大叔母から連絡が入り、ビリーたちは病院へと駆けつける。若い担当医がイギリスに留学していたと聞いたビリーは、ナイナイに分からないように英語で病状を尋ねる。「がんが進行している」と説明する医師に、ビリーは本人に知らせなくていいのかと疑問をぶつけるが、医師は「この状態なら中国では知らせません。傷つけないためのいい嘘です」と答えるのだった。
ビリーの父も「アメリカでは本人に隠すのは違法だ」と大叔母と伯父を責めるが、大叔母はナイナイの夫ががんになった時、ナイナイも死の直前まで黙っていたと話し、「死期が迫ったら私から姉さんに言うわ」となだめるのだった。さらにビリーも伯父から、西洋では個人の命はその人のものだが、東洋では家族の一部だと諭される。
思いつめたビリーは、母に中国に残ってナイナイの世話をしたいと相談するが、「誰も喜ばないわ」と止められる。様々な感情が爆発したビリーは、幼い頃、ナイナイと離れて知らない土地へ渡り、いかに寂しく不安だったかを涙ながらに母に訴えるのだった。
家族でぶつかったり、慰め合ったりしながら、とうとう結婚式の日を迎える。果たして、一世一代の嘘がばれることなく、無事に式を終えることはできるのか? だが、いくつものハプニングがまだ、彼らを待ち受けていた──。
Castキャスト

オークワフィナ
ビリー
- 「オーシャンズ8」(18)
- 「クレイジー・リッチ!」(18)
1988年、アメリカ、ニューヨーク州、クイーンズ生まれのアジア系アメリカ人。多彩な才能に恵まれ、女優、脚本家、ラッパーとして活躍している。『オーシャンズ8』(18)で、サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ、リアーナ、ヘレナ・ボナム=カーターらによる珠玉のアンサンブルキャストに参加し、一躍その名を知られる。続く『クレイジー・リッチ!』(18)でも高く評価され、大ヒットシリーズの新作『ジュマンジ/ネクスト・レベル』(19)に出演し、幅広い人気を獲得する。また、本作ではアジア系女優史上初となるゴールデングローブ賞主演女優賞 (ミュージカル・コメディ部門)を受賞した。ニコール・キッドマン、メリル・ストリープ共演の『The Prom』(20/原題)、自身の名前をタイトルにしたTVシリーズ「Awkwafina Is Nora from Queens」(20/原題)など待機作が目白押しである。

ツィ・マー
ハイヤン
- 「ラッシュアワー」(98・07)
- 「ムーラン」(20)
香港出身の中国系アメリカ人。カナダでも活躍している。出演作品には、『ラッシュアワー』(98)と『ラッシュアワー3』(07)、マイケル・ケインと共演した『愛の落日』(02)、トム・ハンクスと共演したコーエン兄弟監督の『レディ・キラーズ』(04)、『メッセージ』(16)などがある。TVシリーズでは、「LA大捜査線 マーシャル・ロー」(98~00)、「24 -TWENTY FOUR-」(01~10)、「Hell on Wheels」(11~16/原題)、「Veep/ヴィープ」(12~19)、「高い城の男」(15~19)などのヒットシリーズにレギュラー出演してきた。待機作には、主役を演じる『Tigertail』(原題)、ディズニー作品『ムーラン』(20)などがある。

ダイアナ・リン
ルー・ジアン
有名な中国人女優。14歳の時に演技キャリアをスタートさせ、1975年からハルビン/北京歌劇院で5年間の集中訓練を受ける。1980年代半ばまでに、中国最高学府とされる上海戯劇学院で4年間専門的に学んだ後、学士号を取得して卒業。そこでは、中国の伝統歌唱法と舞踏、西洋の歌唱法とダンスも学ぶ。多くの映画やTVシリーズで主役を演じ、中国歌劇では数多くの有名なキャラクターを演じる。初めての長編映画『人生没有単行道』(84/原題)で主役を演じ、素晴らしいキャリアをスタートさせた。1990年代にオーストラリアへ移住し、西洋市場のために徹底した自己改革を行った。それ以降、数多くの映画、TVシリーズ、舞台に出演しているが、時折中国に戻り、地元の作品にも出演し続けている。

チャオ・シュウチェン
ナイナイ
中国で有名な映画・TV女優。ハルビンで生まれ、現在は北京に住んでいる。16歳でハルビン演劇学校に入って以来、舞台で数多くの素晴らしい役柄を演じてきた。温かく、懐の大きい、自然な演技で、中国の多くの映画やTVドラマで芸術性の高いイメージを作り上げた。また、中国で最高レベルの演技者が選出される「国家一級演員」(過去、ジャッキー・チェンなども選出)にも選ばれ、中国で絶大な人気と実力を誇り、“映像芸術の母”と呼ばれている。近作は、TVシリーズ「The Story of Ming Lan」(18/英題)など。

水原碧衣
アイコ
中国を主な拠点として活躍しているバイリンガル女優。2019年に全米公開され2020年にゴールデングローブ賞を受賞した超話題作『フェアウェル』でハリウッドデビューを果たした。
京都大学法学部卒、メンサ会員。早稲田法科大学院休学中にチャン・イーモウ、チェン・カイコーなどの名監督や中国の多くのトップスターを輩出した中国最高学府である北京電影学院の演技科に1年間留学。唯一の女子留学生でありながら首席で卒業。留学生が首席卒業するのも、卒業公演で主役を演じるのも北京電影学院史上初の快挙。
卒業後すぐにテレビドラマの準主役が決まり、翌年には「モスクワは涙を信じない」でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したウラジーミル・メニショフ監督のロシア中国合作映画にメイン出演し、ロシア人主演女優の中国語と日本語の吹き替えも担当した。
2016年東京国際映画祭の東京・中国映画週間で初主演映画「海を越えた愛」がゴールドクレイン賞を受賞し、中国で大きく報じられ話題となった。
その後も多くの映画やドラマ、CMなどに出演し、胡軍、カリーナ・ラウ、「空海」のホアン・シュアン等数々の中国トップスターと共演している。
声優としては中国で活躍する日本女性声優の代表的人物として、日本語のみならず完璧な中国語での吹き替えもこなせる数少ない存在として数多くの大作に参加。様々な役柄を幅広くこなし、一つの映画で7人以上、CCTVの大作ドキュメンタリー番組「ナショナルトレジャー」で20人以上の声を吹き替えたこともあり、北京首都国際空港の日本語アナウンスも担当している。
2018年には中国で一番人気のクイズ番組――英語字幕付きで全世界に向けて放送される「Who′s still standing」の特番「世界名門大学頂上決定戦」において、日本から唯一京都大学を代表して出場した。ハーバード大学やケンブリッジ大学なども参加しているこの番組において各国の名門大学代表と戦い、注目を浴びた。
2019年にはアメリカ映画「The Farewell」(邦題:「フェアウェル」2020年10月2日全国公開予定)に唯一の日本人キャストとして出演。
本作では「オーシャンズ8」「クレイジーリッチ!」に出演のオクワフィーナ、「ラッシュアワー」「24」「ムーラン」などに出演のツィ・マーなどと共演。
「ムーンライト」「ルーム」など設立6年でアカデミー賞に25度ノミネートさせている新進気鋭の「A24」による配給が決まる。水原はA24作品に出演した最初の日本人となった。
「フェアウェル」は「アベンジャーズ・エンドゲーム」が作り上げた2019年の劇場あたりの平均興行収入記録を更新し一躍注目の的になり、その後も数々の賞レースで勝ち進み、数多くの映画評論家や全米メディアから高い評価を頂いて全世界で公開された。
第77回ゴールデングローブ賞では二部門にノミネートされ、主演のオクワフィーナはゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門においてアジア系女優史上初の主演女優賞を受賞し、歴史を作った。「フェアウェル」はオールアジア系キャストによるハリウッド映画の流れを変えた作品として歴史的成功をおさめ、水原碧衣も第18回アジアンアメリカンアワード、第25回放送映画批評家協会賞などハリウッドのトップスターと並び数多くの映画祭やイベントにゲスト招待された。日中米と国境を超えての活躍が今後も期待されます。
Staffスタッフ
ルル・ワン
監督/脚本
ダニエル・メリア
製作
マーク・タートルトーブ
製作
ピーター・サラフ
製作
アンドリュー・ミアノ
製作








Production Noteプロダクションノート

#ルル・ワン監督の実体験から生まれた物語
本作はルル・ワン監督が大きくかかわった、“実際の嘘”に基づいている。それは、2013年にワンが初めての長編映画『Posthumous』の編集に入っていた時のことだった。中国の長春に住むワンの祖母が、余命わずかと診断されたのだ。そしてワンは大叔母と両親から、病気のことは本人には秘密にすることに決めたと告げられる。
ワンにも祖母に辛い想いをさせたくないという家族の気持ちは理解できたが、完全には納得できなかった。中国で生まれたが、6歳の時に北京を離れマイアミで育ち、ボストン大学に進学したワンは、真実を告げることが人間関係において最も大切なことではないのか、人は皆自分自身で選んだ方法でこの世を去る権利を持っているのではないかと考えたのだ。それに何より、愛する祖母に面と向かった時、嘘をつき続けることができるのか全く自信がなかった。だが、中国に到着したワンは、「目の前で起きているこのことこそが、私が一番、映画にしたい物語だと気づきました。哀愁とユーモアが入り混じった物語です」と振り返る。

#両親の力を借りた脚本にプロデューサーが注目
アメリカに帰ったワンが、家族の嘘について書き上げた脚本は、ナショナル・パブリック・ラジオの人気シリーズ「This American Life」の1エピソード「What You Don’t Know」として放送された。だが、ワンはこの経験のもっとミステリアスな側面に深く切り込みたいと考え、脚本を書き続けた。
中国語を流暢に話せるが書くことはできないワンは、すべて英語で脚本を書き上げたが、中国でのシーンは出演者たちに中国語を話してほしいと考えていた。そこで、翻訳者の力を借りたのだが、正確すぎる訳でニュアンスが変わってしまった。「私の頭の中で聞こえていた言葉と違うものになってしまったんです」とワンは説明する。「そこで私の両親に、もっとリアルな会話調に翻訳してもらいました。両親は中国語を書けるだけでなく、関わっている実在の人たち全員を知っている上に、実生活の中で彼らがどんなふうに話すのかもわかっていたので、大いに助けになりました」
その頃、「This American Life」を聞いた、ビッグ・ビーチ社のプロデューサーであるダニエル・メリアとピーター・サラフ、デプス・オブ・フィールド社のクリス・ワイツがワンにアプローチしてきた。ワンと同じく「これは映画になる」という直感に突き動かされたのだ。映画用の脚本も大いに気に入った製作チームは世界に規模を広げ、キンドレッド・スピリット社の台湾人プロデューサーであるアニタ・ゴウ、中国を拠点とするシーソー・フィルムズ社のジェーン・ジャンなどが参加することになった。

#ビリー=オークワフィナ、運命のキャスティング
主人公のビリーのキャスティングは、この映画の最も重要なポイントだった。時折、キャラクターと俳優の間に化学反応が起き、実人生と演技の区別がつきにくくなることがある。オークワフィナがビリー役を引き受けた瞬間、まさにそれが起こった。アンダーグラウンドのラッパーとしてセンセーションを巻き起こし、広く知られるようになったオークワフィナは、2018年には『オーシャンズ8』と『クレイジー・リッチ!』でカリスマ性を発揮し、映画スターとしてブレイクを果たした。だが、公に知られる彼女の自信たっぷりの生意気なキャラは、ビリーの内向的な物腰とはかなり異なる。それにもかかわらず、オークワフィナには、このキャラクターが完全にわかっていた。
オークワフィナとビリーには、いくつかの類似点がある。クイーンズで生まれたオークワフィナは、4歳の時に母親が亡くなり祖母に育てられた。ワンは、オークワフィナがブレイクする前にオーディションテープを見た途端、この役は彼女のものだと確信したと語る。「明るさとドラマ性を併せ持ち、言語の難しさにも挑戦できる人を探していました。オークワフィナは完全にアメリカ人ですが、少し中国語も知っています。彼女はとても愉快な人ですが、繊細な感情も持っている。ビリーを私に寄せずに、オークワフィナ自身を投影し、オリジナルな人物像を作り出してくれたことを本当にうれしく思っています」
オークワフィナは、「私にとって大きな意味を持つ挑戦でした。自分ならどうするか問いかけたら、ビリーの微妙な感情が私にも湧いてきました。アメリカ人であることと中国人であること、悲しみと祝い事、自分の思いを告げることと何もしないでいること、ビリーはいつもそういった二つの世界を行き来しながら立ち往生してしまうのです。本当に興味深い探求になりました」

#祖母役に中国の有名女優と、大叔母役にまさかの本人の共演
もう一人、非常に重要な役柄であるビリーの祖母のキャスティングには、オーディションが行われたが、全く成果は得られなかった。そんな中、キャスティング・ディレクターから提案された、中国のTVドラマで有名なチャオ・シュウチェンの出演作を観たワンは、「顔も物腰もとにかく完璧でした」と振り返る。その直感は当たり、現場でも「このおばあちゃんは、かなり親分風を吹かすタイプで、時々びっくりするくらい強情ですが、チャオは見事にもっと柔らかくて魅力的な部分とのバランスをとってくれました」とワンは絶賛する。
共演したオークワフィナは、「チャオ先生に対する尊敬の気持ちはとてもリアルで、そのまま演技の一部になりました」と振り返る。「人として、彼女への愛情が膨らんでいきました。それはスクリーン上でも感じてもらえると思います」
祖母の妹で、ビリーの大叔母という役は、なんとワンの大叔母のルー・ホンが演じている。「『家族の力関係はリアルか?これは自分の経験と同じか?』など、大叔母本人に確認しながら撮影できました。常に生き生きとしたリアリティを保つ手助けになってくれたと思います」とワンは説明する。大叔母にとって、過去を思い出すのは簡単なことだったが、最大のチャレンジは人生で初めて映画のカメラの前に立ったことだ。
その他、中国系アメリカ人俳優ツィ・マーが、ビリーの心優しい父親を演じている。『ラッシュアワー』シリーズなどで有名なベテラン俳優だ。ワンは、「彼はとてもチャーミングで、ドライなユーモアのセンスの持ち主ですが、目の中に悲しみがある。何となく中国系アメリカ人版のビル・マーレイのような感じです」と称える。

#中国らしい照明とヨーロッパ的な映像で撮影された実在の舞台
ワンは、いくつかの小さくてシンプルな部屋、そして広い宴会場一つだけで、強烈なビジュアルイメージを作り出そうと考えたと説明する。「中国の至る所にある蛍光灯を使おうと思いました。中国には、ほのかな灯りに対する憧れはありません。できるだけ多くの照明を望むのです」蛍光灯を一度に点けると、面白いほど調子っぱずれで何もかもさらけ出すような効果が表れた。
カメラチームを率いる撮影のアンナ・フランケスカ・ソラーノは、スペインのバルセロナに生まれ、現在はニューヨークに住んでいる。ワンは、「アンナのヨーロッパ的な美学が好きです。これまで一度もコメディを撮影したことがないところも、エキサイティングでした。話し合いを重ねて、舞台のようなフレーム割にしたので、家族全員が祖母のために演技をしていることを強調する、演劇的でスタイリッシュな映像が出来上がりました」と説明する。
ワンとアンナが重点を置いたのは、丸テーブルを囲んだ家族の親睦会から、どのようにして映画的なダイナミズムを紡ぎだすのかということだった。「個々の食事を、家族それぞれのテーマと感情に分けました」とワンは指摘する。「例えば、長春での最初の家族の夕食では長めのレンズを使用し、家族のメンバーそれぞれの距離感を表現しました。おばあちゃんは結婚式を楽しみにしている一方で、他の皆は秘密を守ろうと緊張しています。でもそれは、後の食事のシーンで変化していきます」
最終的に、ワンとアンナは球面ワイドレンズで広く撮影することにした。それによって、家族全体を一度に歪むことなく見ることができる。「広いアスペクト比は、通常は風景に使用されます。私は家族の風景を撮影するというアイデアが気に入りました」とワンは語る。
長春市は、北朝鮮とロシアに挟まれた、中国東北部の吉林省に位置する。その街にある実際の祖母の家で撮影することで、さらに真実味が加わった。「最初は、映画製作の基盤が整っている北京や上海という国際都市でロケハンしました」と製作のメリアは言う。「でも、小さめの地方都市である長春には独特の雰囲気があります。結婚式のシーンも、実際にワンの従兄弟が祝宴を挙げた宴会場で撮影しました」
ワンにとって最も個人的なロケ地が、墓地のシークエンスで使われた祖父が眠る墓地だ。「祖父を知る人たちから、ずっと彼が作家になりたがっていたと聞きました。この映画を作るために長春に戻ることによって、私は彼の遺志を引き継いだのです」とワンは感慨深く話す。

#オリジナリティあふれる音楽にのせて描く驚きのクライマックス
音楽は、ニューヨークに拠点を置く作曲家のアレックス・ウェストンが手掛けた。ワンは、「声が入った音楽を望んでいました。古代ギリシャ劇の合唱隊のような役目を果たす音楽です。それらの声は、ビリーには警告として、そしてコミュニティの音として響いてきます。アレックスが作り出した音楽は、男性歌手にファルセットで歌わせているため、独特な音になっています。美しいけれど、思いがけない音なのです」と解説する。
また、家族写真のシークエンスでは、ベートーベンの「ピアノソナタ第8番(悲愴)」のメロディが流れる。アカペラで表現されるその曲が、全く新しい感覚を与えている。「美しく、悲しいメロディですが、このバージョンでは、同様に人を驚かせるような遊び心があります」とワンは説明する。
本作は、憂鬱と茶目っ気、笑いとほろ苦さが相互に作用しながら、驚きのクライマックスへと突入する。そこには、タイトルの意味に対する疑問が投げ掛けられる。『フェアウェル』とは、ビリーが祖母に別れを言おうとしているのか、それとも、家族や人生はこうあるものだという概念に別れを告げようとしているのか?結論として、最初はとても嘘っぽく見えたあの嘘が、逆説的に自分の祖母の癒しになる手伝いをしたのではないかと、ワンは思っている。
家族全員が、心理的なものであれ、人知を超えたものであれ、祖母が予期せず生き延びたことに対して、自分自身の意見を持っているとワンは言う。「人は常に自分たちの選択を正当化する方法を見つけようとする。物事がどういう結果になったとしても、その部分は変わらない。ただ、出来事にはどこかミステリアスなところがあり、私は謎のまま残ってほしいと思います。あの嘘が正しいかったか間違いだったかは、私には大した問題ではありません。私にとってこれは、意見の違う相手を受け入れることと、理解することを描いた物語なのです」
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フェアウェル
The Farewell
2019年 / アメリカ / 100分 / 日本公開:2020年10月2日 / © 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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